事業承継というと、後継者の覚悟や資金繰り、従業員との関係に目が向きがちです。
ただ、私が引き継ぎのあとに強く意識するようになったのは、契約書を自分の目で読んで確かめる習慣でした。
のばら薬局を先代から引き継いだのは2022年10月です。
引き継いだ会社は、すでに動いています。そこに新しい契約の話が持ち込まれたとき、最後の判断をするのは代表になった自分です。
私は職業柄、契約書はきちんと確認するよう、事業者さんにもお伝えする立場です。
自分も確認を欠かしているつもりはありません。それでも、営業の方と話を進めていると、契約書の話が後回しになることがあります。
実際に私も、とても良いサービスだと思い、最終段階で契約書を見せてもらったところ、不安を感じる部分があり、契約しなかったことがあります。
この記事では、その経験をもとに、契約の場面で気をつけていることを書きます。
法人の契約では、クーリング・オフを使えない前提で考える
最初にお伝えしたいのは、事業としての契約は、個人の契約とは前提が違うという点です。
個人が消費者として結んだ契約では、訪問販売などの一定の取引でクーリング・オフが使えます。
これは特定商取引法に定められた制度です。
ところが同法の第26条には適用除外の定めがあり、営業のために、または営業として結ぶ契約は、原則としてその対象になりません。
消費者庁の特定商取引法ガイドでも、この適用除外が挙げられています。
ただし、法人だから一律に対象外、というわけではありません。
同じ消費者庁の資料には、相手が事業者や法人であっても一律に除外するものではなく、個人用・家庭用のものを事業者名で契約した場合などは別に判断される、という趣旨の解説があります。
私は、法人として結ぶ契約は、クーリング・オフで取り消せない前提で臨んでいます。
クラウド上でボタンを押した瞬間から契約が有効になる、と考えておくと、押す前にしか確認の機会がないことがはっきりします。
モノの購入より、サービスの契約に気をつける
契約と一口に言っても、すべてを同じ力で確認するわけではありません。
モノを買う契約は、ほとんどの場合、あまり心配はないでしょう。
注意したいのは、何らかのサービスを受ける契約です。
こちらは、事前に契約書を取り寄せて確認したほうがいいと考えています。
サービスの契約には、本体の内容だけでなく、別の部分に影響が及ぶ記載が含まれていることがあるからです。たとえば次のような点です。
新しいサービスが、自動で付け加えられる仕組みになっていないか。
条件が後から変更されたとき、つまり改悪されたときに、こちらはどうなるのか。トラブルになったとき、どこの裁判所で争うことになっているのか。
こうした点を挙げ始めると切りがないほど、こちら側に不利な内容が書かれているケースは少なくありません。
良いサービスだと思うときほど、契約書の話が後回しになる
事業を運営していると、営業の方から提案を受ける場面があります。
私にも、「これはとても良いサービスだ」と思って話を進めたことがありました。
そういうときほど、話はどんどん進みます。機能や料金、導入後のイメージの話が盛り上がる一方で、契約書の話は後回しになりがちです。
話が進んでしまうと、途中で「契約書を見せてほしい」と言い出しにくい雰囲気にもなります。
私も、契約書を見せてもらったのは最終段階でした。
そして、その契約書を読んだところ、不安を感じる部分がありました。
良いサービスだと思っていた分、迷いもありました。それでも、不安が残ったまま進めるのはやめようと考え、契約しませんでした。
契約書の確認が大事なことは、頭では分かっています。それでも、良いと思っているサービスの商談の流れの中では、言い出しにくい。
だからこそ、特に注意が必要だと私は考えています。
契約書は先に取り寄せて、自分で読む
私の場合は、契約書を先に取り寄せて確認するようにしています。
電子上の手続きに入る前に、契約書そのものを手元で読み、書かれている内容に違和感がないかを確認します。
ここで大事にしているのは、契約書を必ず自分で読むことです。
担当者の説明を聞いて分かった気になるのではなく、文書として書かれている内容を、自分のこれまでの商習慣に照らし合わせて読みます。
「ここは普通と違う」「この書き方は自分に不利ではないか」と引っかかる箇所がないかを見ていきます。説明の場でどれだけ印象がよくても、効力を持つのは契約書に書かれた文面です。
違和感があれば、そのまま相手に伝える
読んでいて引っかかる箇所があったら、相手に伝えます。「ここと、ここが気になっています」と、具体的に示します。
このときの反応は、相手によって分かれます。
難色を示されるケースもあれば、すぐに修正を出してくるケースもあります。
私は、ここは交渉次第だと思っています。
気になる点を言葉にして伝えることで、条件が変わる余地は十分にあります。
相手の反応そのものも、判断の材料になります。
それでも違和感が消えないときは、正直なところ、契約しないことをお勧めします。
判断がつかないときは、弁護士に見てもらう
自分だけで判断がつかないときは、弁護士に見てもらい、助言をもらうのも一つの手です。
私は、知り合いの弁護士さんに相談しました。
その際、契約書を渡すだけにはしません。自分が懸念している点や、特に注意してほしい点を伝えるようにしています。
どこを見てほしいのかが伝わると、確認してもらいたい部分に的を絞って助言をもらえるからです。
創業した人と、引き継いだ人の違い
最後に、これは私の見立てです。自分で最初から会社を立ち上げた人と、既存の会社を引き継いだ人とでは、契約をきちんと確認するという点が抜けている人が、後者には多いように思います。
自分で会社を立ち上げた人は、最初の取引先との契約から、一つひとつ自分で結ぶ経験を重ねます。契約書の読み方も、自然に身についていきます。
一方、引き継いだ人は、すでに動いている会社の中に入ります。
取引や契約が最初から用意されていて、契約書を自分でゼロから読む経験が少ないまま、判断する立場になることがあります。
だからこそ、引き継いだ人は、意識して契約書に向き合う必要があると思います。
まとめ
法人の契約は、クーリング・オフに頼れない前提で、ボタンを押す前に確認します。
私が実践しているのは、次の流れです。
契約書を先に取り寄せる。自分で読み、これまでの商習慣に照らして違和感を探す。
違和感があれば相手に伝え、条件の修正を相談する。それでも消えないなら契約しない、または弁護士に相談する。
「明日までに」と期限を示されたときほど、一度立ち止まって、契約書を読む時間を確保してください。
事業を引き継いだ方、これから引き継ぐ方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
事業承継の入口ページ:https://www.mouri-consultant.com/succession/
※弁護士への相談は一般的な方法の紹介で、個別の契約の法的判断ではありません。
個別の契約は、弁護士などの専門家にご確認ください。




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