事業承継というと、会社や事業を引き継ぐ手続きの話が中心になりがちです。
けれども、私自身が薬局の事業を引き継いで感じたのは、本当に大変なのは引き継いだあとだということでした。
引き継いでから今日まで、シフトづくり、在庫の発注、そして売上の減少と、次々に壁が現れました。
この記事では、引き継ぐと決めた経緯と、その中から特に印象に残っている場面を、うまくいったことも、うまくいかなかったことも含めてお話しします。
これから事業承継を考える経営者の方にとって、準備のヒントになれば幸いです。
母と何度も話し合い、「自分が引き継ぐしかない」と思うようになった
この先、薬局をどうしていくか。そのことは、母とも何度も話をしていました。
M&Aでどこかに譲る、知り合いの薬局に引き取ってもらうなど、いくつかの候補がありましたが、M&Aの仲介会社の方にお越しいただいて話を聞いていると、母にとってはその方向性ではないようでした。
しかし、何も決まらないまま、どんどん月日が過ぎていきました。私も、これはこのままではまずいぞと思い始め、自分が引き継ぐしかないかな、とだんだん思うようになってきました。
ある日、母に「薬局を引き継ごうか」と言ってみたら、それがお願いできるなら一番いいと、喜んでくれました。
大きなものを引き受けたつもりではなかったのですが、その後の話に発展していきます。

引き継いだ直後は変わらなかった。困りごとは、そのあとに始まった
引き継いだ直後は、これまでの仕事と何も変わりませんでした。
こんなものかと思っていましたが、少しずつ業務を引き取り、自分自身で手を動かし始めたころから、たびたび困ることが出てきました。その最初が、従業員のシフトづくりです。
当時は5人分ほどのシフトをエクセルで作っていました。
希望を聞いては入れ替え、また入れ替えるので、月に1回ではあるけれど2時間から3時間はかかっていたと思います。
「これはもう無理だ」と感じたのは、従業員の方からいただいていた休み希望の日に、誤って出勤で組んでしまったことが何回かあったときです。
絶対に間違えたくない。その思いで、新しい仕組みを入れることにしました。
相談できる相手はほとんどいなかったので、どうすれば解決できるのかを自分で調べ、システムで解決できるものはシステムで解決する、という進め方をしました。
ツールは「機能を比べて、必要なものを具体化する」と選びやすい
シフトを決めるツールは、候補が5〜6個ありました。
細かいところは覚えていませんが、選び方の手順ははっきり覚えています。
まず1つ目のツールを見て、どんなことができるのかを把握します。
次に2つ目も同じように、何ができるのかを見ていきます。
すると、1つ目で良かった機能、2つ目で良かった機能が浮かび上がってきて、自分が何を必要としているのかが、少しずつ具体的になっていきました。
3つ目、4つ目と調べていくうちに、必要な機能がだんだん固まっていきます。
最終的に、最低限欲しい機能を備えていて、そのうえで便利な機能があればなお良い、という基準でツールを選ぶことができました。
導入する前は、シフトを公開するのが怖いと感じる時もありました。
導入後は、休み希望の日に出勤を組んでしまうことが皆無になり、導入して良かったと思っています。
また、従業員の方が使っているカレンダーに、勤務日と時間が自動で反映される機能は想定外でしたが、従業員の方にも喜ばれました。
感覚で決めて遠回りした、在庫管理ツールの失敗
ただ、ツール選びがいつもうまくいったわけではありません。
どうしていいか分からず、「こっちかな」と決めたことが、思うような結果にならなかった例もお話しします。
薬局の在庫は千数百種類あり、毎日処方箋が来るたびに、少しずつ薬が減っていきます。
発注は、箱についている発注カードを必要に応じて箱に入れ、一日の終わりに、その箱に入った発注カードが本当に必要かどうかを確認したうえで発注する、という方法でした。
この作業が大変なうえに、薬の不足を完全にはカバーしきれていないという大きな課題がありました。
そこで、需要予測や、在庫が一定の数を割ったときに発注する発注点方式を自動でできるツールを探し、いくつかの在庫管理ツールを検討した結果、1つのツールを選びました。
ところが、実際に使ってみると思ったような動きになりません。
何度も試しましたが、需要予測の機能はうまく働かないことが分かりました。
完全にだめだったわけではありません。
発注した商品の受け入れが自動的にデータで連携されるようになり、その作業は省力化されました。
しかし、もともと欲しかった需要予測の部分は期待どおりにならなかったため、今は別のツールに切り替える準備を進めています。
決め手がないときは、感覚で決めたこともあります。それでも、決めて進むということが大事でした。

想定と違った売上と、いま続けている改善
もう一つ、想定と違ったのが、売上と利益です。薬局の売上は安定しているとは言えない、ということは、なんとなく分かってはいましたが、大きく減る経験はあまりありませんでした。
私は中小企業診断士の仕事も別にしていますが、こちらは原価がほとんどかからないので、売上の多くが手元に残るビジネスモデルです。
毎年12月は忙しい1か月なのですが、昨年の12月は患者さんが多くなく、あまり忙しさを感じませんでした。
年明けからだんだん患者さんが減り、毎月、売上の減少が続いています。年間を通して、患者さんの数が減っていることになります。
さらに、今年6月の調剤報酬改定では、ある要件の件数が取れなかったために、収入が減ることが分かりました。
改定の内容については、2026年調剤報酬改定、薬局経営者が今すぐ向き合うべき現実もあわせてご覧ください。
これまでは売上がある程度あったので、収支はとんとんでよいかと思っていました。
その考えが通用しなくなり、とにかく経費は削減し、人件費も抑えるために勤務シフトを見直すなど、対応を続けています。ただ、すぐには改善しないものです。
そこで、これまであまり手をつけてこなかった取り組みも始めました。
薬局内のOTC商品のラインアップを少し増やし、手書きで簡単に書いていたプライスカードを、少しポップなものに変更しました。
X、インスタグラム、Googleビジネスプロフィールへの投稿も行うようにしています。まだ結果には表れていませんが、できることは何でもやる。そんな思いで続けています。
最初の半年に戻れるなら、計画を立てるところから始めたい
シフト、在庫、そして売上。振り返ると、引き継いだあとに待っていたのは、どれも具体的で、避けて通れないことばかりでした。
今、最初の半年に戻れるとしたら、やはり王道ですが、計画を立てるところからスタートします。
このタイミングでこんなことが起こる、こんな作業が必要になる。それが分かっていれば、準備ができるからです。
これから事業承継を考える経営者の方に、明日できる一歩をお伝えするなら、まず計画を立てることです。引き継ぐ日がゴールではなく、そこから始まる日々に何が起こるのかを先に描いておくこと。それが一番の備えになると感じています。
そして、計画を立てたうえで、それでも苦しい状況はやってきます。
ただ、改善のヒントは、苦しいときに湧いてくるものだと感じています。
できることは何でもやる。その気持ちで、これからも新しい取り組みを探し続けていきます。
後継者が直面する悩みについては、事業承継後の二代目が直面する今後の悩みとその解決法でも整理しています。
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